「設立するとき、1株の値段っていくらにすればいいんですか?」
会社設立の相談で驚かれることが多いのが、この問いに唯一の正解がないという事実である。
1株100円にする会社もあれば、1株1円で設立する会社もある。
この違いは、単なる好みの問題ではなく、将来の資金調達やストックオプション発行のしやすさに関わってくる。
本記事では、「スタートアップ向けモデル原始定款」第5条(発行可能株式総数・設立時発行株式数)を題材に、
会社設立時の株価設計と発行可能株式総数の考え方を解説する。
このモデル定款は、株式会社スマートラウンドとBAMBOO INCUBATORが共同開発し、
YOU司法書士法人代表の松本光平が開発メンバーの一人として参画した無料公開テンプレートはこちら。
会社設立時の一株あたりの価格の考え方
会社法上、1株あたりの価格に制限はない。
(旧商法下では、かつて1株の額面を5万円以上とする制限があったが、現在の会社法にはこうした制限は存在しない)
司法書士として設立相談を受ける実務上の感覚では、資本金10万円〜100万円程度の設立で、
1株1,000円〜10,000円程度に設定する例が比較的多いとされる。
多くの発起人・創業者は株価の設定自体をあまり意識しておらず、
司法書士側から提案するケースが多いとされる。
一方、近年のスタートアップでは、1株あたりの価格をより低額(1円単位等)に設定し、
その分発行株式数を多くする設計が採られることがある。
理由として整理できるのは、次のような点である。
1株価格が高く、発行株式数が少ない状態のままだと、
将来ストックオプションの割当てや投資家への株式割当てを行う際、按分計算・端数処理が難しくなりやすいとされる。
対処法として株式分割という手続きがあるが、変更登記のコストが発生する。あらかじめ発行株式数に余裕を持たせておくことで、こうした株式分割の手続きを避けやすくなるとされる。
株価をいくらに設定すべきかという具体的な数値の妥当性は、
資本政策全体の設計や将来の資金調達計画によって異なるため、
一律に「これが正解」と言えるものではない点には留意が必要である。
会社設立時の発行可能株式総数
株式会社は、定款で「発行可能株式総数」(会社が将来にわたって発行できる株式数の上限)を定める(会社法37条・113条)。
ここで重要なのは、株式の譲渡制限を定めている会社(非公開会社)と、
そうでない会社(公開会社)とで規制が異なる点である。
公開会社は、設立時に発行する株式数の4倍を超えて、
発行可能株式総数を定めることができないという制限があるとされる(会社法37条3項)。
一方、非公開会社(多くのスタートアップが該当する全株式譲渡制限会社)には、
この4倍規制は適用されず、発行可能株式総数をより自由に設定できるとされる。
実務上の目安としては、設立時発行株式数の10倍〜100倍程度に設定する例が紹介されることが多いとされる。
モデル原始定款第5条がこう設計されている理由
「スタートアップ向けモデル原始定款」第5条は、資本金100万円・1株1円・設立時発行株式数100万株、
発行可能株式総数1億株(設立時発行株式数の100倍)を基本形として設計されている。
将来のストックオプション発行や複数回にわたる資金調達を見据え、
発行可能株式総数に大きな余裕(設立時発行株式数の100倍)を持たせることで、
増資やストックオプション発行のたびに定款変更(株主総会特別決議+変更登記)を行う必要性を減らし、
機動的な対応を可能にする設計になっていると整理できる。
なお、この数値はあくまでモデル定款が示す一つの「基本形」であり、
実際に採用する資本金額・株式数は各社の資本政策に応じて調整することが前提とされている(※実際の設立にあたっては、
このモデル数値をそのまま採用すべきかどうかも含め、専門家に相談することが望ましい)。
実務上の注意点・落とし穴
発行可能株式総数を変更する場合、株主総会特別決議
(議決権の3分の2以上等の要件、会社法309条2項)と変更登記が必要になる。
増資の直前に発行可能株式総数の余裕がないことに気づき、あわてて定款変更から行う、
という事態は避けたいところである。1株あたりの価格を極端に低く設定した場合でも、
資本金の額そのものには影響しない(資本金は出資額の総額で決まる)。
株価の高低と資本金額を混同しないよう注意が必要である。発行可能株式総数・設立時発行株式数のいずれも登記事項であるため、
設立後に誤りに気づいた場合は変更登記が必要になる。
設立時点で慎重に設計することが望ましいとされる。
まとめ
「1株の値段をいくらにするか」「発行可能株式総数をどれだけ確保しておくか」は、
設立時には見落とされがちだが、将来の資金調達のしやすさに直結する設計ポイントである。
「スタートアップ向けモデル原始定款」は、
資本金100万円・1株1円・発行可能株式総数1億株という具体的な基本形を示すことで、
将来の資本政策までを見据えた設計を提示している。
次回は、同じくCEOが開発メンバーとして参画・出演している第18条(株主総会招集通知)を解説する。
テンプレート本文はこちらから無料でダウンロードできます。
参考動画
BAMBOO INCUBATOR
「徹底解説:発行可能株式総数と設立時発行株式数の考え方/なぜ一株1円にするべきなのか/なぜ多めに発行可能株式総数を設定するのか/スタートアップ向けモデル原始定款第5条の解説」
