「会社の公告方法って、結局どれを選べばいいんですか?」

会社設立の相談を受けていると、こう聞かれる場面は少なくない。

定款の中でも公告方法の条項は、事業内容や本店所在地に比べて後回しにされがちだが、
実は会社の運営コストや、将来の増資・減資手続きの実務にまで影響する、地味だが奥の深い条項である。

本記事では、株式会社スマートラウンドとBAMBOO INCUBATORが共同開発した無料公開テンプレート
「スタートアップ向けモデル原始定款」の第4条(公告方法)を題材に、公告制度の基本と、
モデル定款がどのような考え方でこの条項を設計しているかを解説する。

このモデル定款は、YOU司法書士法人代表の松本光平が開発メンバーの一人として、
参画したオープンソーステンプレートである。
(開発担当者一覧はこちらに公式掲載)。

公告制度の基本解説

会社法上、株式会社は定款で公告方法を定めることになっている(会社法939条1項)。
定款に公告方法の定めがない場合は、官報公告を採用したものとみなされる(同条4項)。
会社が公告を必要とする場面は、主に次の3つに整理できる。

  1. 決算公告:毎事業年度、定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表(大会社は損益計算書も)
         を公告する義務があるとされる(会社法440条1項)。

  2. 減資(資本金の額の減少):資本金を減少させる際の債権者保護手続きに伴う公告(会社法449条)。

  3. 合併・会社分割等の組織再編:組織再編に伴う債権者保護手続きの公告。

選べる公告方法は主に次の3種類である。

  1. 官報:国が発行する機関紙への掲載。

  2. 日刊新聞紙:あらかじめ定款で指定した新聞への掲載。

  3. 電子公告:自社ウェブサイト等への一定期間の掲載。

決算公告を例に、それぞれの特徴を整理すると次のようになる。

  • 電子公告
    申込みが不要で無料・即時に掲載できる点がメリットとされる。
    一方、決算公告を電子公告で行う場合、貸借対照表の内容を5年間継続して、
    開示し続ける義務があるとされ(会社法940条1項2号)、現預金額・売掛金額等、
    勘定科目の中身まで含めた内容が長期間にわたり公開され続けることになる点に留意が必要である。
    また、決算公告以外(合併等の組織再編に伴う公告等)を電子公告で行う場合は、
    電子公告調査機関による調査が必要になり、その分のコストが発生するとされる(会社法941条)。

  • 官報
    決算公告については、貸借対照表の「要旨」(総額のみ)の掲載で足りるとされ、
    電子公告に比べて開示範囲を絞りやすいとされる。
    掲載費用は6万〜7万円程度が目安とされ、申込みから掲載までに1〜2週間程度を要するとされる。

  • 日刊新聞紙
    官報より掲載費用が高額になりやすいとされ、例えば日本経済新聞では100万円規模になるケースがあるとされる。
    一方、日刊工業新聞等、選ぶ媒体によっては費用を抑えられる場合もあるとされる。

モデル原始定款第4条がこう設計されている理由

「スタートアップ向けモデル原始定款」第4条は、公告方法として官報を採用している。

理由として整理できるのは、決算公告における開示範囲の違いである。
電子公告で決算公告を行う場合、貸借対照表の全文を5年間継続して開示し続ける必要があり、
現預金額・売掛金額など経営の内情に関わる情報が、
競合他社や取引先を含む誰の目にも触れる状態が長期間続くことになる。

これに対し、官報公告であれば貸借対照表の「要旨」(総額のみ)の開示で足り、開示範囲を絞ることができる。
コストの安さだけでなく、経営情報の開示範囲をコントロールできる点も重要な判断材料になり得るという考え方に基づき、
モデル原始定款はスタンダードな官報を採用していると整理できる。

なお、電子公告または日刊新聞紙を公告方法として定款で定めている会社には、
「ダブル公告」による実務上のメリットがある。

会社法上、資本金を減少させる際は、原則として官報公告に加え、
会社の債権者に知れている範囲で個別に催告する手続き(債権者保護手続き)が必要になる(会社法449条)。


しかし、電子公告または日刊新聞紙を公告方法として定款で定めている会社は、
官報公告に加えてその方法でも公告することで、
知れている債権者への個別催告を省略できるとされる(会社法449条3項)。

モデル原始定款はこのメリットよりも、決算公告における開示範囲の抑制を優先し、官報を選択していると整理できる。

会社によっては、この点を踏まえてあえて電子公告や日刊新聞紙を選ぶという判断もあり得るだろう。

なぜ資本金1億円を超えると減資を検討する会社があるのか

会社法上の公告制度と一見関係なく思えるが、
動画の目次にも取り上げられている論点として「資本金1億円の壁」がある。

一般に、資本金が1億円を超えると、外形標準課税の対象になる、
登録免許税の負担が増える、中小法人向けの各種軽減税率の適用対象から外れる場合がある、
といった税負担の増加につながる場面があるとされる。
(※具体的な適用要件・税率は税制改正により変わりうるため、最新の制度内容は税理士等の専門家に確認することが望ましい)。

このため、増資等により資本金が1億円を超えた企業が、
税務上の理由から資本金を1億円以下に減資する動きが一定数見られる、と紹介されることがある。

減資の手続きは、株主総会決議に加え、上述の債権者保護手続き
(官報公告+知れている債権者への個別催告、または官報とその他の方法によるダブル公告)
が必要になるため、公告方法の条項とつながってくる。

実務上の注意点・落とし穴

  • 電子公告調査が必要になる場合がある
    合併等の一定の場面での公告を電子公告で行う場合など、
    会社法上「電子公告調査機関」による調査を要するケースがある(会社法941条)。
    調査費用の目安は5万円〜8万円程度とされる。
    決算公告のみであれば不要な場合が多いとされるが、
    どのような場面で調査が必要になるかは事案により異なるため、個別に確認することが望ましい。

  • 決算公告の義務と実態のギャップ
    決算公告は会社法上の義務であるにもかかわらず、実務上の所感として、
    これを実施していない未上場企業は少なくないとされる。
    義務であることに変わりはなく、怠った場合には過料の対象になり得るとされるため
    (会社法976条2号等)励行が望ましいと整理できる。

    公告方法は登記事項であるため、後から変更する場合は定款変更
    (株主総会特別決議)と変更登記が必要になる。

まとめ


公告方法は地味な条項に見えて、決算公告での情報開示範囲や、
将来の減資・組織再編の場面での実務上の負担を左右する、
スタートアップにとって軽視できない設計ポイントである。

「スタートアップ向けモデル原始定款」は、コストだけでなく経営情報の開示範囲まで考慮し、
官報公告を採用する設計になっている。

次回は、同じくCEOが開発メンバーとして参画・出演している
第5条(発行可能株式総数・設立時発行株式数)を解説する。


テンプレート本文はこちらから無料でダウンロードできます。

参考動画

BAMBOO INCUBATOR
「奥深い会社公告制度の世界〜官報公告?電子公告?日刊新聞?/どれがお得?/減資手続きと公告/スタートアップ向けモデル原始定款第4条の解説」

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